## 1. まずPython側を「Rustに寄せる」:型と境界を増やす Rustの“コンパイルチェックの気持ちよさ”は、型情報と境界(責務分離)が揃うほど効いてきます。Pythonでもそれを先に作れます。 ### Pythonでやると効く3点セット * 型ヒントを「局所から」増やす いきなり全ファイルではなく、関数の入出力だけ型を付ける。 例:`def parse_user(line: str) -> User: ...` * dataclass / pydantic等でデータ構造を固定 “辞書の海”を減らすだけでRust移行が激減します。 * 例外を減らし、Resultっぽい戻りにする 例外投げっぱなしではなく、`(ok, value_or_error)`や専用エラー型で扱う癖を付ける。 > 目的:Pythonで「型」「境界」「エラーの形」を作ってからRustへ。Rustのしんどさの多くは、ここが曖昧なまま移植しようとすることから来ます。 ## 2) Rustで最初に触るべきは「所有権」ではなく「型+エラー」 Rustの壁として所有権がよく言われますが、学習順としては逆が楽です。 ### 最初に固めると移行が滑らかになる順序 1. 型(struct/enum):Pythonのdataclass置き換え 2. エラー処理(Result / ?):例外文化からの脱却 3. 借用(&)とライフタイム:必要になったときだけ 4. 所有権とムーブ:パフォーマンスや安全性を意識する段階で深掘り 特に、最初は「参照を返す設計」を避けて、所有して返す(StringやVecを返す)に寄せるとライフタイム地獄を回避しやすいです。 ## 3) “小さい成功体験”を作る題材選び:I/O境界があるものが最強 Python→Rust移行で一番うまくいくのは、境界が明確で、状態が小さい部品です。 ### Rust移行に向く題材(おすすめ順) * 文字列パース/ログ整形/CSV変換 * APIレスポンスの整形(JSON→struct) * バリデーション(入力検証) * 小さめのCLIツール(引数→処理→出力) 逆に、GUIや巨大Webアプリの丸ごと移植は、早期にやると高確率で苦しくなります。 ## 4) 実務的に一番スムーズ:Python+Rustの“ハイブリッド”から入る 「全部Rust」ではなく、重い/重要な部分だけRustにするやり方です。これが最もストレスが少ない移行パターンです。 ### 典型パターン * Pythonで:I/O、設定、オーケストレーション(速く作る) * Rustで:パース、計算、バリデーション、コアロジック(堅牢にする) こうすると、Rustのコンパイルチェックの恩恵を受けつつ、Pythonの速度感を維持できます。 ## 5) “Python脳”のままRustに行くと辛いポイントと、回避の型 移行で詰まりやすいギャップを、あらかじめ回避する設計ルールです。 ### ギャップA:可変・共有がデフォルト → Rustは制御が必要 回避策: * Rustでは「不変が基本、必要な所だけmut」 * Pythonでも「関数は引数を破壊しない」を癖にする ### ギャップB:None/例外で雑に流す → Rustは明示が必要 回避策: * Pythonでも `Optional` と `Result相当` を分ける * 「ないかも」はOptional、「失敗する」はResult(例外)に整理 ### ギャップC:動的な辞書設計 → Rustは構造体設計 回避策: * まずPythonの辞書をdataclass/pydanticへ寄せる * Rustでは `struct` と `enum` で「状態」を閉じる ## 6) 具体的な“学習ルート”案(負荷が低い順) あなたの「憧れ(コンパイルチェック)」を早めに味わいつつ、苦しみを後回しにする並びです。 1. Python:型ヒント(入出力だけ)+dataclass化 2. Rust:`struct/enum`+`Result/?`でCLIを1本作る 3. Rust:所有して返す設計でパース/変換系を2〜3本 4. Rust:参照(&str, &[T])を使ってコピー削減(ここで借用に触る) 5. 必要が出たら:ライフタイム/トレイト/非同期 へ拡張 --- ## 7) ここから最短で始める「次の一歩」 今日やるなら、次のどれかが最も効果が高いです。 * Pythonの自作プロジェクトのデータ構造(辞書)を1箇所だけdataclass化 * そのデータを食う変換関数に型(引数・戻り値)を付ける * 同じ仕様をRustで“入力→変換→出力”のCLIとして再実装する(機能は小さく) ## リンク - [[「とりあえず動くPythonプログラム」から脱出するロードマップ]]